台湾ドルで給与所得がある台湾駐在員は、昨今の円安により円ベースでは収入が増えますので、ちょっと得した気分になれます。日本に一時帰国ともなれば、日本ではプチ贅沢ができるイメージです。逆もまた然りで、つまり単一通貨だけで資産を持つことは、ある意味リスクをとっていると言えます。
昨今の円安進行と為替リスク、そして資産運用における留意点について、あらためて解説したいと思います。そして先月の日本銀行によるマイナス金利解除の発表を受け、今後の金融政策運営と為替市場、さらには投資家の資産運用に与える影響について考察します。
円安の主な要因と最新状況
ここ数年の円安進行には、主に以下の3つの要因が指摘されてきました。
- 日米金利差の拡大
米国米連邦準備制度理事会(FRB)は2022年3月から利上げを開始し、年内にベースとなる政策金利を0.25%から4.25-4.5%の水準まで引き上げる、パンデミック後で過去最大級のタカ派姿勢に転じました。一方の日本銀行は長らく金融緩和姿勢を維持してきました。この金利差が円売り・ドル買いの大きな流れを生み出してきました。 - エネルギー安全保障への懸念
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、資源の安定調達への不安からエネルギー価格が高騰。資源の大半を輸入に頼る日本では、貿易赤字が拡大し、円安要因となりました。 - 財政出動による通貨安比較
コロナ禍で各国が財政出動に踏み切った中、日本の対GDP比財政赤字は主要国で最大級となっています。財政悪化が通貨安を招く、との見方があります。
足元の円安は、ウクライナ情勢の長期化で資源高が継続していること、米国の利上げペースが依然として日本を上回っていることなどから、当面は進行が続くとの見方が大勢です。
一方、日本銀行は2024年3月の金融政策決定会合で、長年続いたマイナス金利政策を解除すると決定しました。この決定を受け、日本の金利水準は徐々に上昇し、日米金利差の縮小が見込まれます。
マイナス金利解除発表の影響と展望
マイナス金利解除は、日銀がいずれ金融引き締めに転じるのではないかとの思惑を市場に生じさせています。つまり、長年の超緩和政策に終止符が打たれ、日本の金融正常化に向けた道筋がようやく示されたと受け止められています。
もし今後、日銀が予想以上に金融引き締めに動けば、それは円高要因に働くことが予想されます。日米金利差の縮小が進めば、これまでの円安トレンドに陰りが見え始める可能性があるからです。
ただし、日銀の金融正常化は当面、徐々に行われると見られており、直ちに日米金利差がゼロ近辺まで縮小するとは考えにくいため、当面の円安トレンドへの大きな変化は期待しにくいとの見方が多数を占めています。実際の為替も1米ドル=150円前後で推移したままです。
為替リスクへの備えと資産運用
為替変動リスクは資産運用にとって大きな影響を及ぼします。円安は保有する外貨建て資産の円換算評価額を増やす効果がある一方、円高ならば減らす効果があります。投資家は以下のようなリスク対応を検討すべきでしょう。
- 円建て資産と外貨建て資産をバランスよく保有する。
- 為替ヘッジ付きの外貨建て資産に投資する。
- 為替レートリンクの金融商品を活用する。
また、円安は輸出関連株など一部の国内企業や不動産など一部の資産に恩恵をもたらすと見られており、そうした円安受益資産にも注目が集まるでしょう。
しかし為替リスクへの備えはあくまで手段であり、より重要なのは、中長期的な視点に立った堅実な資産運用です。短期的な為替変動に一喜一憂するのではなく、自らの投資目的やリスク許容度を踏まえた上で、しっかりとした投資方針を立てることが不可欠です。
そして、投資対象を1つの国や資産に集中させるのではなく、国際分散投資や資産別の分散投資を行うことが賢明です。国際分散投資は為替リスクヘッジにもなりますし、株式、債券、不動産など、様々な資産への分散は、リスクの分散だけでなく収益源の多様化も期待できます。
まとめ
円安は輸出関連企業には恩恵がある一方で、輸入コストの上昇や消費者物価の高騰など、日本経済全体にはリスクの側面もあります。為替変動は資産運用に大きな影響があるため、投資家は常にそのリスクに注意を払う必要があります。
一方で、日銀のマイナス金利解除を受け、徐々に金融正常化が進む可能性が出てきました。もし日米金利差が想定以上に縮小すれば、当面の円安トレンドに陰りが見え始める公算が高まります。
しかし重要なのは、中長期的な投資目的を見失わず、バランスの取れた資産運用を行うことです。地道で堅実な資産形成を目指しましょう。堅実な分散投資と機動的なリスク対応が投資の要諦であり続けるはずです。
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