ある台湾在住のAさんからご相談をいただきました。Aさん曰く、日本の知り合いからある投資話を頂いたので、検討の余地があるかどうかを私に聞きたいとのことでした。
- 日本では通常億単位の資産がないとできないといわれているプライベートバンキングを、外国の銀行で日本人も始めることができるのか?
- 運用利率もいいし、リスクもなさそうなことを言われた。
そこでもう少し詳細をきいたところ、
- 信用のできるお知り合いの知り合い(すでに他人ですが)からの紹介(そして二人とも会計には詳しい方々)
- 内容については大まかには教えてはくれるのだが、詳細を知りたい場合は、NDA(守秘義務)を結ばないと教えて貰えない。
- プライベートバンキングで、実質金利8%以上を約束。複利運用
- 投資単位は数百万円以上(詳細は不明)
- 2年間は解約が出来ない
という具合で、Aさんの気持ちは少し傾いているのですが、この情報から、この投資をどう思われましたでしょうか。魅力的だと思われましたでしょうか。投資されますか。そしてその判断の理由は何でしょうか?
もう少し詳細がわかれば、より判断しやすいのですが、この情報だけある程度私の中では答えは出ており、もうこれ以上深入りする必要はないと思います。残念ですが、この投資案件は、詐欺の可能性が非常に高いと言わざるを得ません。その理由を一つずつみてまいります。
・プライベートバンキングのビジネス
まず、プライベートバンキングのサービスを提供するような銀行が、小口数百万円の預金を複数口集めて運用することは通常ございません。プライベートバンクが得られる収益は、一般的に顧客の口座残高の1%程度です。1億円預けてもらい、年間100万円程度の手数料しか受け取れません。百万円の預け入れで1万円の手数料しか受け取れないとしたら、収益性が低すぎます。
・日本の会計士さんと海外金融
会計士の先生方は、金融とは言え、専門はあくまで会計であり、海外金融は全く別ものです。日本には金融商品取引法という法律により、金融庁の認可のない金融商品を、日本国内で営業することができません。つまり能動的に海外の情報を取得しにいかない限り、入ってこないのが現状です。顧客に対し情報提供を目的に海外金融を勉強されてる熱心な先生方もいらっしゃるのは事実ですが、本業がある中で、専門でないものを正しく判断出来る先生がどれだけいらっしゃるかというと、それほど多くはないかなというのが私の肌感覚です。
・NDA(守秘義務)が必要なの何故?
他人に相談させない目的で、守秘義務をあおる詐欺は少なくありません。守秘義務締結後に説明いただける方がプライベートバンカー自身でないとしたら、おかしな話ですね。
・年利8%を約束できるものか。
年利8%を2年間必ず約束するのは、この低金利時代においては、かなり高利回りです。一般論ですが、株式投資ですら長期運用で得られる平均実質リターン7%と言われています。これはあくまで「平均」であり、上下変動をしながらの平均値です。米ドル建ての債券投資も、長期で実質3-4%が過去における平均リターンです。これらを一つのベンチマークとして比較した時、この「年利8%2年間保証」という数字がいかに出来過ぎかということです。投資通貨、運用手法はわかりませんが、いずれにせよちょっと「うますぎる話」です。
・2年解約不可
これは運用する側は、約束していた期間より早期で引き上げられてしまうと、当初の予定通りの運用が出来なくなり、利回りが確保できなくなることはあります。ですからこのような制限を設けることは、運用する立場から理解できます。(保険の早期解約手数料はまさにこの仕組みです。)
もしこの案件が詐欺だとした場合、現段階では2年縛りですが、2年以内に運用に問題が発生し、引出が制限されたりします。そして、結局全額は引き出せなかったりします。連絡が担当者と一切取れなくなったりすることもございます。
以上、色々と疑問に思うことが多く、納得できることが少なすぎます。全詳細を聞いておりませんので、真実は分かりませんが、現時点でこれ以上詳細を聞くまでもない、というのが私の結論です。
投資を決断する際に大事なのは、自分で全て納得ができるかどうかではないでしょうか。投資するのはご自身のお金ですし、自分で納得の上であれば、失敗も成功も受け入れることができると思います。いずれにせよ、正しい物差しを持って判断ができるようになりたいですね。
海外投資を謳った詐欺は、生まれては消えての繰り返しです。これまでたくさんの詐欺案件が私の前を通り過ぎていきました。私自身この金融業界に長く携わり、それなりの判断は出来ると思っております。もしご自身の運用・投資で不安やご心配がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。