普段テレビや新聞のニュースで、「為替レート」はよく耳にされると思います。台湾や海外に在住されている方は、台湾ドル等の外貨をお持ちなので、日本居住者より為替レートを意識する機会は多いのではないでしょうか。しかし為替レートそのものは、お金を両替する時に意識する程度で、普段の生活ではあまりなじみがない方がほとんどだと思います。しかし為替レートに物価上昇率という別の指標を加味することで、「実質実効為替レート」というとても大切な指標に変わります。「実質実効為替レート」は、その国の経済状況や国力を見極める意味でも非常に大切ですので、是非皆様に押さえておいていただきたいです。まずは日本とアメリカの比較でみてまいります。
為替レート
日本円と米ドルの過去20年の為替レートは、下記の通り推移しました。
短期的な上下はありましたが、ほぼ1米ドル=100円(±20円)の間で推移しており、中長期では安定した為替レートだったと言えます。
物価上昇(インフレ)
次に両国の物価上昇率です。
日本はバブル崩壊後のデフレ経済により、この20年間ほとんど物価上昇しませんでした。一方アメリカは、堅調な経済成長のもと平均で年2.2%の物価上昇率を達成しました。ちなみにFRB(米国連邦準備理事会)の物価上昇目標(インフレターゲット)は年2%です。ほぼ目標通りの金融政策が行ってきたと言えます。
では次に、為替レートと物価上昇を一緒にするとどうなるでしょうか。ここではわかりやすいようラーメンの値段を例にご紹介します。
もし20年前ラーメンが1杯500円だったとすると、日本ではインフレしなかったので、今もなお一杯500円のままです。
一方アメリカでは、 20年前1杯500円のラーメンは、1米ドル=100円なので5米ドルでした。しかし毎年2.2%ずつ値段が上がりしました(物価上昇した)ので、今では一杯10米ドル程度になっています。
つまり20年経過した今、日本人は日本であれば、500円で昔も今もラーメンが1杯食べれますが、アメリカに旅行に行くと、2倍の1000円を出さないと1杯のラーメンが食べれなくなってしまいました。つまり米ドルに対して日本円の価値が下がったことを意味します。アメリカに旅行すると、以前に比べて色々なものが高く感じるのはこのためです。
実質実効為替レートはその国の実力
このように「為替レート」に「物価上昇率」を合わせると、通貨の実質的価値(実力)が見えてきます。残念ながら米ドルに対する日本円の価値(実力)は、この20年で大きく下げてしまったということです。
では対米ドルのみならず、世界の通貨に対して、日本円の価値はどうなっているのでしょうか。そこで参考になるのが「実質実効為替レート」です。「実質実効為替レート」は、世界主要国約59ヶ国の為替レートや貿易量、物価上昇率を考慮しており、世界における日本円の相対的な価値を知ることができます。
実効為替レートは、特定の2通貨間の為替レートをみているだけでは捉えられない、相対的な通貨の実力を測るための総合的な指標です。具体的には、対象となる全ての通貨と日本円との間の2通貨間為替レートを、貿易額等で計った相対的な重要度でウエイト付けして集計・算出します。
下記グラフは、1970年から今日までの日本円の実質実効為替レートの推移です。
1970年から1995年にかけて、60ポイントから140ポイントと2倍以上になりました。高度経済成長期、多くの日本人が海外旅行先でたくさんのブランド品を購入しておりました。強い日本円のおかげで、海外のモノを「安く」買うことができたのです。
しかし1995年以降は、停滞する経済から脱却ができず現在に至るまで、日本円の実質実効為替レートは下がり続け、ピーク時の半分となり、1970年初頭のレベルにまで下がりました。日本円の実力が低下したことで、海外旅行先では色々なモノが以前より高く感じます。安くてよかった新興国ですら、この20年で一気に経済発展し、加えてインフレもしておりますので、更に高く感じることもあります。実は実質実効為替レートをここまで下げた国は、経済破綻等を経験した国を除けば、日本以外にございません。
この状況を反対側の外国からみてみますと、外国人は日本の事を、以前に比べて安い!と思っているのではないでしょうか。上記ラーメンの例でもわかる通り、アメリカ人は日本に来れば、半値で1杯のラーメンが食べれるのです。半値でもラーメンのクオリティが半分になっていないでしょうから、本当に安くて美味しいラーメンが食べれるお得な国に感じていることでしょう。
お隣中国の中国元実質実効為替レートに至っては、この20年で約2倍です。正に1970年から1995年にかけての日本と同じです。世界各地どこでも中国人を見かけるのは、以前の日本同様、強い中国元のおかげです。中国元と日本円を実質実効為替レートの関係は、中国元は2倍、日本円は半分ですから、中国元は日本円の4倍の実力をつけたことと同じです。中国人は間違いなく日本のことを、安くていいものが手に入る国とみているに違いありません。いつの間にか日本は、「爆買いする国」から「爆買いされる側」になってしまったのです。
世界標準で自分の資産を勘定する
この20年で、日本円の実質実効為替レートが半分になったということは、この20年間でご自身の円資産を2倍にできていて、ようやく世界標準で±0ということです。2倍にできていない方は、世界標準では資産が目減りしたことと同じです。お給料も、20年前の2倍もらえてはじめて世界標準で±0です。もし2倍もらえていない方は、その分会社に割り引かれているのかもしれません。
そしてこの20年で従業員への給料を2倍にできていない経営者は、世界レベルでは戦えていない、従業員に甘えている経営者かしれません。
実質実効為替レートが下がることは、好ましくないのはお分かりいただけると思います。では中国のように上がるのがよいかというと、輸出関連企業などは、通貨高は海外の競争力低下を意味しますので、一概によい面ばかりではございません。では最もよいのは、安定していることです。実質実効為替レートが安定していれば、2倍にできた資産は、将来実質ベースでも2倍です。(日本では資産を2倍にできても、実質実効為替レートが半分になってしまったため、相殺され資産の増減は±0だったわけです。)下記グラフをご覧いただくとお分かりの通り、米ドルは高い水準で安定しております。資産運用先の通貨として、富裕層の保有財産として米ドルが重宝される理由はここにございます。
台湾ドルの実質実効為替レート
台湾の実質実効為替レートも日本と同じように1995年以降下げてきました。しかし2010年頃に下げ止まり、現在は少しずつ上昇してきました。
まとめ
今回は実質実効為替レートについてまとめてみました。個人的には、日本円の実質実効為替レートの上昇は、今後非常に難しいと思っています。実際どうなるかはわかりません。大切なことは、どんな状況になっても大丈夫なように、リスクを分散・低減しておくことです。
世界経済は、アメリカを中心に動いていることは紛れもない事実です。実質実効為替レートからみても、米ドルの価値は常に安定しており、保有しない理由はありません。リスク分散の観点から、どんな形でもよいので、まずはご自身の資産ポートフォリオの一部に、米ドル資産を保有しておくことをお勧めします。