台湾駐在中に、運用目的や保障目的で台湾の生命保険を検討される方もいらっしゃると思います。今回は台湾の生命保険事情についてまとめました。記事の後半では、台湾と香港の貯蓄型保険を比較検証していますので、参考になれば幸いです。
この記事の目次
台湾の生命保険について
多岐にわたる台湾の生命保険商品
台湾は生命保険の普及率で世界第2位を誇っています。保険普及率は、国内総生産(GDP)に対する保険料収入の割合を示し、高いほど国民の保険への傾向が強いことを示します。先進国の平均保険普及率は一般的に9.6%、新興国市場では3.3%とされており、台湾は17.4%と、先進国の中でも著しく高い水準を維持しています。生命保険の普及率も14.0%で、世界全体でも非常に高い数字と言えます。
台湾で提供されている保険商品は多岐にわたります。定期保険、終身保険、年金保険、変額保険、医療保険、傷害保険、外貨建て保険など、日本で利用できる保険商品も、ほぼ全て台湾でも選択可能です。
台湾で生命保険に加入する場合、保険代理店や保険ブローカーを通じて申し込むことが一般的です。保険商品の説明や相談を受けるために、知人の保険エージェントや現地の店舗を訪れることもできます。しかし、多くの保険会社が公式ウェブサイトで保険商品の概要やパンフレットを提供しており、インターネットを活用して情報収集することも可能です。
台湾の生命保険会社リスト
台湾で現在営業中の生命保険会社は、合計22社です。
台湾の生命保険における国内中心のアプローチ
台湾の保険業界では、主に台湾国民を対象とした製品が提供されています。そのため、全ての生命保険会社のウェブサイトは主に中国語で提供されており(これは当然のことですが)、企業概要、事業活動、取り扱い商品、コーポレートガバナンス、投資家情報、財務情報など、企業と商品に関する情報が網羅されています。
英語版ウェブページの提供状況に関しては、22社中7社は英語版ウェブページを提供していないことが判明しました。大手の外資系生命保険会社でも、英語版ウェブページを提供していないケースも見受けられます。
残りの15社についても、全ページの完全翻訳ではなく、主に会社概要、コーポレートガバナンス、投資家情報、財務情報などの一部が英訳されています。生命保険商品の詳細やパンフレットの英訳は、一社も見当たりませんでした。
残念ながら、台湾の生命保険会社の主要な顧客対象は「台湾在住の台湾人」であるため、生命保険商品に関する詳細情報を得るには、中国語が堪能でない場合は、保険代理店や保険ブローカーの専門家に相談する必要があります。
類似の状況は日本にも見受けられます。日本の保険会社のウェブサイトも基本的には日本語が主であり、英語版ウェブページも台湾の保険会社と同様、限られた情報しか提供されていません。
結局のところ、自国の市場での需要に応じてビジネスが成り立っている限り、台湾在住外国人向けに英語版ウェブページを提供する意義は限られるかもしれません。
一方、香港は「オフショア」として金融が主要産業の一つとなっており、その一環として保険業界も確固たる地位を占めています。香港の保険会社は、香港国民だけでなく、香港在住の外国人や海外在住の外国人をも顧客として取り込んでおり、ウェブページや商品パンフレット、申込書類も中国語と英語の両方で提供されていることが一般的です。
世界市場で競争するためには、高品質なサービスと魅力的な保険商品を提供することが不可欠です。香港を含むオフショア地域では、顧客に有利な健全な競争が促進され、多くの魅力的な保険商品が提供されています。このような違いが、顧客の利益につながっているのです。
日本人の台湾生命保険加入条件
台湾の生命保険は主に台湾国民を対象に提供されていますが、日本人も特定の条件を満たす場合に加入することが可能です。基本的な加入条件は、台湾在住かつ台湾での就業が必要です。また、働いていない場合は配偶者ではなく、台湾で生まれた子供に限り加入が可能です。
加入手続きに必要な書類
- パスポート
- 居留証
- 工作許可証(労働許可証)
注意:日本帰国後に加入することはできないため、台湾在住中に保険契約を済ませる必要があります。また、日本へ帰国しても保険契約はそのまま維持可能です。
保険の種類による外国人加入制限
一部の保険商品には外国人の加入限度額が設定されている場合があります。加入時には注意深く確認してください。また、生命保険以外にも医療保険や傷害保険も加入可能な場合があります。
保険料の支払い方法
台湾で提供されている生命保険は、台湾ドル建てのほかにも米ドル、人民元、オーストラリアドルなどの外貨建て保険商品も存在します。
保険料の支払い回数は、一括払い、3年ごとの支払い、6年ごとの支払い、12年ごとの支払いなどが商品によって異なります。
台湾ドル建て保険:台湾の銀行口座から引き落としや台湾の金融機関発行のクレジットカードを使用して保険料を支払うことができます。 外貨建て保険:台湾の銀行口座以外に、日本や海外の銀行からの海外送金による支払いも可能です。特に日本からの資金を使いたい場合には、外貨建ての保険を選択することができます。
解約返戻金と死亡保険金の受け取り方法
保険契約解除や満期時の返戻金、被保険者の死亡時に支払われる死亡保険金を受け取る方法は以下の通りです。
台湾ドル建て保険:台湾国内の金融機関からの受け取りが可能です。ただし、日本帰国後に台湾の銀行口座を閉じる場合は注意が必要です。
米ドル建て保険:保険会社によって異なりますが、一部の保険会社は米ドル建ての保険金を日本の金融機関に海外送金してくれるサービスを提供しています。この場合、為替手数料がかかることもあるため、注意が必要です。
税金に関する注意点
保険料支払い時:台湾で支払う保険料には所得税控除は適用されません。
解約返戻金受取時:台湾では保険で得た収益に税金がかかりませんが、日本帰国後に保険金を受け取った場合は、日本の税法に基づいて課税される可能性があります。
台湾の米ドル建て貯蓄型保険の比較
台湾在住日本人が保険を検討する主な理由は、保障より余剰資金の運用だと思います。ここでは一例としまして、台湾の大手保険会社が提供する、米ドル建て貯蓄型保険の設計書を例にご覧いただきます。
利率変動型米ドル建て貯蓄型終身保険
保険会社は、主に米国債や社債、株式などの金融商品で運用しており、運用次第で利率が変動しますが、長期で安定したリターンが見込める保険商品です。貯蓄性の保険は、最近では日本でも人気が高いです。
- 40歳 / 男性 / 非喫煙者
- 保険料:100,116米ドル
- 支払方法:一時払い
- 保証金利0.75%、変動金利3.20%、障害保険附帯
主にご覧いただくポイントは、(B)(D)(E)の3か所です。(赤のエリア)
(B)保険会社が契約者に解約返戻金として保証する分です。保証金利は0.75%で、毎年少しずつ必ず増えていきます。
(D)現行予定通りの運用ができた場合、金利3.20%の配当が毎年蓄積されます。 設計書は今後毎年3.20%を想定し作成されておりますが、 実際の金利は毎年見直しされ、変動する可能性がございます。
(E)(B)と(D)を足したもの、つまりその年の予定解約返戻金です。
元本到達予定が早い!
台湾の米ドル建て貯蓄型保険の一番の特徴は、元本到達が早いことです。
保険料一時払いですと、2年経過時既に100.63%と予定返戻率です。私の知る限り、香港と日本の米ドル建て貯蓄型保険で、これほど早く元本到達する保険商品はみたことがありません。
ここには掲載しておりませんが、保険料6年払いの米ドル建て貯蓄型保険は、元本到達予定が6年経過時となっており、これも香港の同様の保険商品よりも1~2年早いです。台湾では、運用開始から早期の返戻率を高めに設定しておくのが一つのトレンドなのかもしれません。
台湾保険と香港保険を比較
ここからは、台湾と香港の米ドル建て貯蓄型保険を比較してみます。
※ これら保険商品の利回りは全て記事投稿時の保険会社の予定利率によるもので、将来変動する可能性があります。
短期なら台湾、長期なら香港に軍配
今回は台湾の保険商品1つと、タイプの違う香港の保険商品2つを、経過年数ごとの解約返戻率と平均年利比較してみました。(保険料は全て一時払い)
やはり台湾の米ドル建て貯蓄型保険の特徴は、「元本到達の早さ」です。2年経過で元本到達予定ですから、 加入後すぐに必要になるかもしれない短期資金には安心材料です。
そのまま運用を継続し、
5年経過時の予定返戻率は110.44%、平均年利2%
10年経過時の予定返戻率は129.77%、平均年利2.64%
です。この記事を投稿した2021年11月は、10年物米国債の金利が1.5~1.6%程度でしたので、享受した信用リスクと流動性リスクが、保険の金利に上乗せされており、またアメリカのインフレターゲットは年2%ですから、インフレ以上のリターンが期待できている点で、台湾の米ドル建て貯蓄型保険は、資産運用ツールとして整合性が取れていると言えます。
しかし2022年5月時点(本記事修正時点)での10年物米国債は2.8%です。保険の金利は債券よりも遅れて上がるのが一般的ですので、現状況においては、台湾の保険のリターンは少し物足りなくなってしまいます。
一方香港の貯蓄型保険は、長期運用を前提としているものが多く、早期の返戻率は低く抑えられています。最低でも5年から8年経過しないと元本到達は見込めません。その代わり運用期間が長くなるほど高リターンとなり、10年で台湾の保険を上回ってきます。香港貯蓄型保険Bのように、10年で年利3%以上、20年で年利5%前後を予定している貯蓄型保険は、香港では決して珍しくありません。
上記比較は、それぞれの保険会社の予定利回りを前提としており、実際の利回りを約束するものではありませんが、商品選択の目安として、
・8年以内の運用期間を検討される方は、台湾の米ドル建て貯蓄型保険の方が有利で安心
・10年以上の長期運用を検討される方は、香港の米ドル建て貯蓄型保険の方が将来的により高いリターン
と言えます。
まとめ
台湾と香港の米ドル建て貯蓄型保険には大きな違いがあります。短期で解約する可能性のある資金については、いつでも換金できる米国債で十分かもしれませんが、金利によっては、台湾の米ドル建て貯蓄型保険も選択肢に入れることが考えられます。
最終的には、台湾の米ドル建て貯蓄型保険と香港の米ドル建て貯蓄型保険のどちらを選ぶかは、ご自身の資産運用の目的によって使い分けることになるでしょう。ぜひ、詳細に比較検討してみてください。
- 台湾在住者
- 3~8年ぐらいの運用期間を見込んでいる方
- 8年以内に解約する可能性がある方
- 米ドルの為替リスクが取れる方
- ある程度まとまった資金がある方
- 解約金受取時に台湾に在住している方(台湾ドル建ての場合)
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